株式会社キュヴェ インターナショナル(東京都新宿区)は、バーの経営ノウハウを強みに、飲食店のプロデュース会社への成長を目指しています。
ビジネスオーナーとして活動領域を拡大中の日賀野俊雄社長を訪ねました。
■話し手 株式会社キュヴェ インターナショナル (
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日賀野 俊雄 様(代表取締役)
□聞き手 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 (
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本田 祐嗣(開発グループ)
事業が停滞することが大きなリスク
本田 事業の全体像を教えていただけますでしょうか。
日賀野 今のところ、中目黒と新宿で二つバーを経営しています。もう一つ、新宿に「
綾桜」という京野菜のお料理屋さんを出しています。もともと新宿のバー・
リフレインで社員として働いていました。平成9年に当時の社長から「委託で店の経営をやらないか」という話をいただきました。その店は売上がかなり落ち込んでいたところで、三ヶ月間でその店の売上をバブルの時と同じ売上高に持っていったら経営権を渡そうという話でした。三ヶ月ではちょっと・・・と思ったのですが、当時23歳で若かった私が死に物狂いでやってみた結果、三ヶ月で売上を回復させることに成功しました。で、経営権を渡してほしいと直談判したら、今度は三ヶ月間その数字を維持しろといわれました。
本田 話が違ったのですね。
日賀野 そう、話が違うなと思ったのですが(笑)、何とか数字を維持して、委託経営という形で私が経営を始めました。バーがとても好きで、委託経営の形で何年か続けた後に、平成14年に個人事業主になり、平成16年4月に法人成りしました。ずっとバーをやっていましたので、次に綾桜を出店して食事メインのノウハウを得るようにしました。あと、バーが本当に好きで、妥協なしですべてを注ぎ込んでやりたいなと考えて、去年11月に
中目黒にもう一軒のバーを出店しました。
本田 お店の数を増やすにあたって、どのようなことを考えてこられたのですか。
日賀野 いろいろと試行錯誤しました。リスクというお話ですと、本業を大きくしていかないことのリスクを一番感じてきました。飲食ってイニシャルコストは大きいし、ランニングコストも仕入コストもかかる。箱物の中でのビジネスなので、売上の上限がある程度決まっている。そこで、ある頃に、仕入が要らないビジネスをしたいと思いました。しかし、やはり本業は飲食なので、なかなか対象が見つからない、踏ん切りがつかないという状況に直面しました。そこで、自分たちは飲食をやって大きくなっていきたい。だから、飲食の実店舗経営から得られた役に立つノウハウを培いそれをもとにビジネスの幅を広げていこうと気持ちを切り替えたことが、綾桜、そして中目黒のバーの出店につながりました。実店舗は、それはそれでもちろん売上の柱になるんですが、ビジネスツールとしての役割も担っているということです。また、バーでの中身の濃いサービスマニュアルというのは他業種の方々にとっても非常に有効なものであると確信しております。
本田 現状にとどまることがリスクだというお話は非常に興味深いですね。
日賀野 それが一番のリスクだと思っています。
本田 とどまっているとポジションが下がっていくということですね。
日賀野 そうですね。より具体的にお話しすると、一店舗の売上を上げていこうという活動はもちろん必要ですが、それだけではスタッフのモラル、モチベーションが下がっていきます。また、長くいるスタッフの給与、待遇が上がっていく一方で、飲食店の売上は上限が決まっているので、どんどん利幅が少なくなっていく、ということもあります。
本田 なるほど。
日賀野 こちらがモチベーションを与えたり、夢を語ったりして、具体的に行動を起こしていかないとスタッフが辞めていってしまう。そのリスクが大きいわけです。現状維持ではなく、どんどん店を大きくして、スタッフの夢や自分の夢を具体的に行動を起こして、具体的に出していかないといけないと思っています。
コンサルティング事業への多角化で既存事業を活性化
本田 お店のポートフォリオができてきて、スタッフの方々が色んな仕事にチャレンジできる環境になってきているのでしょうか。
日賀野 そうです。今、収入になる仕事というのは、別に狭い意味での飲食事業でなくてもいいのではないかと思っています。一番得意なことを活かせる飲食事業の延長線上にあれば、いいんじゃないかと考え、株式会社キュヴェ インターナショナルとして、
バー立ち上げ事業・バー経営コンサルティング事業を始めました。最終的には飲食全般、企業全体のコンサルティングをしたいのですが、専門であるバーの分野からスタートしました。いきなりラーメン屋のことを教えることはできませんが、バーのことでしたら異業種の方、これから出店しようとする方に対して実例から得られたノウハウを基にアドバイスできますので。
本田 それはスムーズにいきそうですね。
日賀野 飲食店というのは参入しやすく、立ち上げたその日からキャッシュが得られるというメリットはありますが、この先どうなるのかなという不安をスタッフみんなが抱えています。バーは夜に営業しますが、40歳までずっと夜に仕事をしているかというと、それは少し難しいことです。そこで、コンサルティングという新しい事業を立ち上げて、いままで培ったノウハウを注ぎ込んでいく。そうすると、一つの箱の中にとどまっていた人材が外に出て、自分の頭脳でノウハウを提供することができ、それによって売上が立つという一つの目標が立てられます。それで現場での頑張りもどんどん上がっていきますし、現場で一瞬一瞬やっていることが全部ノウハウになっていきます。それがビジネスにつながるんだということをきちんと伝えていれば、スタッフのモチベーションも上がり、私自身のモチベーションも上がります。まだスタートしたばかりですが、ようやく、箱にとらわれないビジネスでの目標が立ったかなと考えています。
本田 かつて飲食以外で売上の限界を破ろうと考えたがそれを思いとどまることができて、今度は同じノウハウをダブルで利用できるような方法で出て行かれた。昼の売上を得ることで一日を有効に使うようにもなったわけですね。
日賀野 コンサルティングにおいてノウハウを使っていこうとすると、人に教えることを通して、自分を再認識できることも大きなポイントです。今まであたりまえのようにやってきたことを修正できたり、再認識できたりするので、現場でのサービスレベルも向上していきます。一番下の立場で入る時は上から教えてもらえますが、上に登ると教えてくれる人がいなくなり、スキルアップが難しくなります。人に言っていることすべてを実行できている人は意外と少ないですので、人に教えることには再勉強効果があります。
ビジネスオーナーとしての管理業務に集中する
本田 今はお店に立ったり、コンサルティングを行ったりというリズムで活動されているのですね。
日賀野 日々の活動の中では、ビジネスオーナーと自営業は違うということを意識しています。トップ営業マンであり続けてしまったらビジネスオーナーにはなり切れません。バーで15年くらい店頭に立ってきましたが、何とかしてシステムとノウハウでお店が回るようにしよう、針の穴を抜けようという作業をしてきました。新宿のバーは私がまったく出なくても動いていますし、綾桜の方も最初の2ヶ月くらい出ましたが、今は任せています。立ち上げている最中の中目黒のバーでも、あと数ヶ月で任せられる状況にあります。そういったサイクルで得たノウハウを活かして、これからは立ち上げ時から思い切りスタッフに仕事を任せていきたいと思っています。
本田 針の穴を抜けるという表現は、広い世界に出るということですか。
日賀野 これは、起業した人間は誰でも通る道だと思います。自分がいてこそ売上が立つ、すべてのお客様と対面してノウハウがたまったら自分が出て行くという状況は良くないじゃないですか。ここを、システムとノウハウをもって他人に任せて、自分はフリーな立場でいられるところまで抜け切るのが、自営業からそういう状況に変化するという意味で針の穴を抜けるということだと思っています。非常に難しいですが、そこを抜けたら世界が変わってくるはずです。
本田 なるほど。針の穴を抜けたら、流れに乗ってくるわけですね。そうなると心配事も変わってくるのではないですか。
日賀野 そうなんです。自営業の時は自分の目に見えるところでビジネスが動いていますので、リスク管理は楽ですね。体力的にはきついですが。ビジネスオーナーになると、今度は人に任せることになります。目に見えないことが増えるため、リスクは増えます。その管理が大事になってきて、細かな作業、あと企画、実行という業務はスタッフに任せます。要は信頼がおけて、なおかつ一緒にやっていて楽しいスタッフとの絆を深めるのが大事です。自分は管理。そこのスキルを勉強していかないといけないですね。
本田 もう少し突っ込むと、どういうことを心配されていますか。
日賀野 まず、信頼している人間が辞めてしまうリスクを常に考えています。それに対してモチベーションを共に上げていくという作業が必要です。ビジネスオーナーと同じくらいの緊張感やモチベーションを持ってやれる人は少ないと思います。これから先に、その少ない人材をどんどん取り込んでいきたいとも考えていますが。
本田 なるほど。
日賀野 逆に、任せた人間が下の人間を育てることも注意して見なければいけない。結局、スタッフを信頼するということに行き着きます。自分では見られないですので。そのリスクというのは、ビジネスオーナーである限りは常に抱えている。それをいかに軽減していくかというところはこれからの課題ですね。
本田 スタッフの方が辞めてしまうこともあるでしょうし、仕事の質が落ちることもあるでしょうし。そうなることを直接的な働きかけで防ぐことはできなくなるけれども、何かしらの仕組みの中で伝えていかなければならないですね。
日賀野 そこは本当に、これで終了ということはないですね。ビジネスをやっていく限りは。楽になろうということを一時期は考えたんですけど、今はそういうことを考えるのはやめました。プレッシャーとともに闘って、常にリスクと向き合いつつやっていきます。それが楽しさに変わっています。それが当たり前、これで終わりというのがないと思えば、逆に楽かなという感じですね。
本田 先ほど右腕の方のお話が挙がりましたが、管理の部分でメンバーを強化していかないといけないとお考えですか。
日賀野 そうですね。右腕の者は私の意志を踏襲してくれていて、同じ場所に居合わせなくても、彼が何をやってくれているか分かります。最近、彼が独断で、お店のスタッフを一人解雇したことがあります。普通なら、私に相談してからどうするか決める性質のことではありますが、私がそこにいても同じように判断しただろうというケースでした。スタッフはうちの組織にいる限り、何らかの目的とか期待をもってうちにいてくれるので、スタッフのモチベーションだけは下げない、ということは自分のモチベーションを上げていかなければならないということで、その辺は気をつけています。
本田 解雇というのは、管理のスタンスの一面を示す非常に強いメッセージですね。
日賀野 そうですね。確かにそれで引き締まった部分はありますね。飲食店が陥りがちなこととして、長くやっている同じメンバーが馴れ合いになるというケースがあります。そのようなリスクを意識して、いつも緊張感を持ってやっていかなければいけないと思っています。言わないでも分かるということがどんどん増えてくる。だけどやはり、再認識をしながら確認しながら作業を進めていかなければならないなという思いがあります。
将来は飲食事業の総合プロデューサーに
本田 これまでのお話から、人材に大きな関心を持っておられることがよくわかりました。それ以外に心配なことはありますか。
日賀野 人が一番ですが、バーでご提供するお酒も安いわけではないので、ある程度、消費者の動向に影響されることがあります。時代だとか雨風のせいにはしたくはないですが。ただ、本物であれば、ファンを引き付けることはできる。景気というところで言い訳はしたくなくて、そのために本物の商品、サービスを揃えていこうと考えています。ですから、常に感じていなければいけないのは時代の変化で、常にそれに対応できる自分を持っていなければいけないですね。
本田 話は変わりますが、保険は利用されていますか。
日賀野 店舗ですから、店舗総合保険には入っていますが、それ以外では特にないですね。
本田 保険で対処できるリスクは企業が抱えるリスクのほんの一部で、基本的には確率論に単純化して考えられるものに限られます。これまでに聞かせていただいた人の話に保険を付けることはできませんし。
日賀野 そういう意味で、飲食業においては普通にある保険を利用していればいいと思いますが、それ以外にはないですよね。人が辞めてしまった時や人を惜しむらく解雇してしまった時の保険とかはないでしょうし。飲食店を開業する際にイニシャルコストの最大部分を占めるのは保証金です。店舗の取得費だけで資金の3分の1から半分持っていかれてしまって、それが寝かされてしまいます。それに対しての何かいいもの、漠然としていますけど、保険があればいいなと思います。
本田 なるほど。
日賀野 大家さんにとっては、テナントが集まらないのが一番のリスクじゃないですか。一方で飲食店には、高い保証金を支払った後に内装や設備を入れる資金が思うように集まらない、それに対して売上が立たないかも知れないというリスクがあるわけです。そこで、できれば、大家さんがある保険会社に保険金を毎月払って、テナントが空いたときに大家さんは保険金をもらえる代わりに、我々が保証金を払わなくていいことになれば非常に入りやすい。
本田 保証金が要らない、もしくは軽減されるということですね。
日賀野 もしテナントが退店してしまった場合は保険会社から保険金が振り込まれてというようなシステムがあったらいいなと思ったことがあります。こちら側の一方的な意見なんですが。ちょっと虫がいい話かも知れませんね。
本田 今日はいろいろなお話をお聞かせいただきました。最後に、これから5年先の御社の姿をお話いただくことはできますか。
日賀野 5年先には、飲食に関するコンサルティングとプロデュースの会社として成長していると思います。海外店舗のプロデュースもしたいですね。今は駅近のバーのノウハウと食事面のノウハウ、中目黒では駅から離れたバーのノウハウができていて、あとはそれをもとにコンサルの事業を柱として直営店舗と運営受託、人の派遣なども含めたオペレーションも絡めて、飲食店において総合的なビジネスが出来る会社になっていたいと思います。
本田 そうなると悩み事も変わっていくわけですね。(笑)
日賀野 そうですね。大きくなればどんどん変わっていきますね。
本田 本日は貴重な時間をいただきありがとうございました。
<編集後記>
「経営者は皆、リスクについて考えていますよ。」インタビュー終了後の雑談で日賀野社長が教えてくださいました。破天荒な試みで知られる実業家リチャード・ブランソン氏(ヴァージン・グループ創設者)も、その著書によると、チャレンジする際に「安全弁」を用意するよう必ず気をつけていたそうです。
よく考えれば当然です。ただ、安全弁にも設置が比較的容易なものと難しいものがあります。保険などは、お金を支払えば保険金を受領する権利が手に入るという点で、前者に含まれることが多いでしょう。一方、今回のインタビューでは、事業の成長が組織・人材マネジメント上を支えているという話がありました。これは間違いなく後者のケースです。不透明な将来をマネジメントする。まさしく経営者視点のリスクマネジメントについて話していただけたと感謝しています。